殺意

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これは怖いですね。
外面だけではわからない、人間の内面の深層心理の不可思議、捉えどころのない闇が描かれてますね。
自分の家庭教師をしてくれた親友、兄弟とも言うべき男に殺意を抱き、3年越しに行動に移した主人公の逮捕から取り調べ、起訴、精神鑑定、裁判、刑務所、仮出所手前までを、恐ろしいほど冷静に語っている。
彼は殺意と殺害は認めるが、頑なに動機を刑事にも検察にも弁護士にも語ろうとしない。
彼はただ、自分の人生に影響を与え続けた男に、このまま覆いかぶされれて身動きできなくなることを恐れて犯行に及んだようだ。
行き当たりばったりに、どういうことになるのか深慮せずに殺人犯となった者たちを軽蔑し、自分は違うという発想自体が既に異常だね。
このまま普通に刑期を全うすればよかったのだが、彼は違った。
自分がなぜ殺人者となったのかを仮出所前にやっと理解した。
自分の過去のDNAが、人間の獣としての遺伝子がそうさせたのだ、なるべくして「殺人者」となったのだと自覚する。
そして今度はより多くの殺人を犯すために逮捕されないよう綿密な計画を立てると誓う。
ほんの表紙に描かれている赤い蕾が暗示している。
膨らんでいく殺意をどう開花させるのか。
思わず背筋の寒なる作品でした。