『名もなき毒』と『黒笑小説』

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人は皆「毒」を持っている。
怒り、悲しみ、妬み、恨み、辛みという形のないものが狂気をまとって「名もなき毒」に。
本来、表に出ることは多くはなかったのだが、最近はいとも簡単に噴出してくる。
そしてこの物語では、形もあり名もある青酸カリという劇薬を使って行われた殺人という行為と、他人を巻き込んで破綻していく女の毒気とをとある大企業のトップの娘婿の探偵行為を通して対比させる。
形も名もある「毒」そのものは、ただの化学物質で意思を持たない。
対して人間は己の意思で悪魔にも天使にもなれる、その心根のもろさこそ、それはそれは厄介な「毒」なのだ。
短編集ですね、13編あります。
ブラックな笑い満載です。
なかでも短編といいながら続編的に小説家達の悲哀が描かれた作品には、著者が文学賞をなかなかもらえなかった思いが反映しているのかな?
この作品が刊行されてから1年後に「容疑者Xの献身」で直木賞を取るんですけどね。(^^)
この短編集でお気に入りは「ストーカー入門」ですね。
ある日、男が彼女に別れ話を持ちかけられる。
ほとぼりが冷めたら彼女と仲直りしようと思った矢先、突如彼女が怒り出す。
「どうしてストーカーにならないのよ、それほど好きではなかったんでしょ」と。(呆気)
なんと彼女がストーカー指南役よろしく・・・・その発想に脱帽!(笑)