歓喜の仔 上・下

30、31

これは何だろう?
心が揺さぶられる。
不安、怒り、諦め、悟り、歓喜
大人達に翻弄され続ける子供達が、群れ結び、立ち上がって前を向く。
大人よりはるかに人間らしく。
人はいつか死ぬ、でも人は滅びない。
人の世に悪ははびこる、それでも善が駆逐されることはない。
ラストのこれらのフレーズが心にしみる。
上下巻と長編ではあるが、長さを感じさせない良い作品でした。

父は多額の借金を背負い込んで女と逃亡。
母は熾烈な借金取りに思い余って窓から転落、打ち所が悪く植物状態に。
長兄は高校生で借金返済のために寝る間を削って覚せい剤の調合をさせられ、自身を投影した異国の少年を夢想する。
弟は小学6年で兄の手伝いをさせられながら母の面倒を見る。
母が倒れてから色彩感覚が無くなっている。
末の妹は幼稚園の年長さんで死んだ人が見えるという。
動物番組から群れて身を守ることを学習する。
工場跡地の隣に建つおんぼろアパートに身を寄り添って、夢も希望もなく暮らす。
同じアパートに暮らす異国の人たち、末の妹の通う幼稚園の異国の人たち、国境の無意味さを肌で感じ取り、人間として、仲間としての絆をいつしか深めていく。
普通に暮らしていては分からないことが彼らには分かる。
差別、嫉妬、暴力、裏切り、この作品を支配する邪悪なものと、純真で無垢で無邪気な幼児・子供たちとの対比が奥行きを作り出す。
長兄の映し出す自分の分身である「リート」が出てくるもう一つの物語と現在進行中の現実世界との二重奏がいい味出してます。