紙の月

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梅澤梨花(旧姓: 垣本)が主人公。
彼女は41歳になる銀行の契約社員で1億円横領し、タイに逃亡しているところから始まる。
どこでどう転落して行ったのか。
彼女と過去に関わりのあった3人の人生との対比が、決っして彼女だけが特殊な存在でないことをうかがわせる。
本の数万円の借用が数十万、数百万と膨らんでいくが、当人は完全に麻痺していて、お金がかたまりにしか見えなくなっていた。
年若い学生上がりの男に貢ぎ、ひと時の幸福、快楽を手に入れるが所詮は張りぼての見せかけの幸せだったのだと気付いた時には遅かったのだった。
タイの田舎町でなら自分の存在を消せると思う、どこまでも呑気な気質が痛い。
転落の分岐点はどこだったのか。
本人の述懐にあるように、きっとどの道を辿っても落ちるものは落ちるのだろう。
本物と信じている間だけは本物。
でもニセモノはニセモノ。
お金だけでは本当の幸せは掴めない。
紙の月・・・ペーパームーン、そういうことだ。