氷壁

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山岳、登山関係の小説が意外と好きなのが分かったわ。(^^;
時代背景となる年代は古い。
1950年代の話なので現代との感覚的ズレは否めないが、それが作品のマイナスになることは全く無い。
この物語には、登山用のナイロン製ザイルをキーにして、男の友情と夫ある身の女性に対する恋慕が描かれている。
切れるはずの無いナイロン製ザイルが切れて友人が滑落死した。
友人の名誉を守る為にザイルが「切れた」ことを訴えるが叶わない。
逆にあらぬ疑いが自身に降りかかる。
このような逆境の中での主人公の心理描写が緻密に構成されていて、まるで我がことのように作中にのめり込んでしまった。
亡くなった友人の妹からの求婚、友人が愛した人妻への思いが複雑に絡まり、主人公はそれらの決着を着けるために人妻への思いを封印し、友人の妹からの求婚に応じる。
それが結果的に彼の遭難死を招くことになってしまった。
山に死するは山男の誉れ、なのだろうか?
上高地の神々しいまでの情景が、穂高連山の稜線と蒼天のコントラストが思い出される。
哀しい結末ではあったが、変に湿っぽくない終わり方が良かったかな。