博士の愛した数式

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初老の数学者と彼を世話する家政婦とその家政婦の息子の三人が紡ぐ愛情あふれる物語。
数学者は40代に交通事故に遭って脳に障害を残す。
彼の記憶はその時点で止まり、80分以内の記憶しか留めることができなかった。
まるで繰り返し使うダビングテープのように上書きされてしまう。
家政婦は高校3年の時に妊娠して未婚の母となった30前の女で、10歳の息子を持つ。
彼女は献身的に数学者に面倒を見る。
数学者は彼女に数式の美しさを説く。
そして結婚していないし、子を持ったことも無いのに、彼女の息子に最大限の愛情を注ぐ。
この傍目には奇妙に映る関係が美しい家族愛を生みだしている。
数学者が阪神タイガースの、それも江夏豊投手の大ファンという設定が物語に絶妙のスパイスを効かしているのが面白い。
随所に出てくる数式に数学嫌いの私は閉口したが、物語そのものの価値が失われることはなかった。
やがて数学者の記憶保持能力がどんどん減っていき、やがて施設に引き取られる。
悲しい結果だけど、三人で過ごした時間は、濃密で幸せだったに違いない。
発想が素晴らしい良い作品でした。
オススメです。