奇跡の人

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「奇跡の人」・・・興味をそそるタイトルで読み進めていくうちに、脳死、良くて植物人間に陥ってもおかしくない状態から奇跡の生還を果たしたまさに「奇跡の人」だった・・・・のだが。
ここにも人間の弱さ、愚かさが描かれていて愕然。
痛い、非常に痛々しい主人公の成れの果てがラストに待ち受けていた。
自分の起こしたスピード超過によるクルマの事故で電柱に激突し、脳挫傷で入院。
それも8年間も。
彼は周りから「奇跡の人」と呼ばれている。
過去の記憶をすべて失っていて、もう一度赤ちゃんから始めて、今31歳になろうとしている彼はやっと小学6年生レベルの知能。
それでも驚異的な回復を果たしているという。
やっと退院が許された彼は微妙な周りの空気の揺れを感じ取る。
父は彼が幼い時に、母は去年に他界し、兄弟もいない彼はたった一人。
彼が入院中に母によって書かれた克明な闘病日記の内容を、母を信じたい。
だが何かが隠されている、リセットされてしまった自分の過去の記憶のことで。
周りの反対を押し切って自分の意思で一度「死んだ」過去の自分を探すたびに出る。
ある意味もう一人の自分探しの旅。
住民票に残る元の住居に行くが、そこに彼が生活していた痕跡はない。
病院からカルテを盗み読みして東京の病院から転院しおてきたこと、本当の出身地を知る。
やはり何か隠されている。
迷うことなく東京に出向いた彼に待ち受けていたのは残酷な過去だった。
ここから先はぜひ読んでください。
愚かな、それでも探求せざるを得ない彼の葛藤が、痛々しい魂の叫びが描かれているから。
そして・・・・彼はまた再び「奇跡の人」と呼ばれることになるのだろうか?
物語は2度目の奇跡がどうなったかまでは語らない、哀しい結末でした。