魔王

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「魔王」と「呼吸」の2章仕立て。
反対の性格を持った兄弟。
兄は考えに考え抜くタイプで、弟は考えないでいけるのなら考えないタイプ。
兄の物語は「魔王」で、弟の物語は「呼吸」で。
ある人物が新しい政党を打ちたてて率いていた。
やり手で民衆の気を引くのが上手い。
そこに何やら怪しい雰囲気を感じ始めていた兄は、ファシズム全体主義の匂いをかぐ。
民衆が騙されないよう、誤った方向に導かれないよう一人党首の演説する場所へ赴き、脳溢血であっけなく静かに死んでしまった。
兄は特殊能力を持っていて、相手から30歩以内に近づいて自分の思っていることを相手にしゃべらせることができるという力。
これを使って党首の演説を邪魔しようとして見えない力に屈してしまったのだ。
ここまでが「魔王」
で、兄が死んでから5年経って結婚していて、例の党首率いる政党が政権を握って首相なっていた。
首相は憲法改正(主に9条)のために国民投票を実施する。
確実に民衆を知らない間に扇動していく。
弟は兄とは違った形で、それでも兄の遺志を継いで悪しき流れを何とかしようとする。
呼吸するようにゆっくりと、でも確実に。
弟は特殊能力を持っていて、確率が1/10以上であれば100%的中させるという力。
10頭以下の馬が走る競馬の単勝買いで軍資金を貯める。
いつか金で物を言わせて世界を動かせるように。

政治問題を絡めた異色作(意欲作)でした。
水に流されずに立ち尽くす1本の木でいられるのか?
読むものに突きつけられる著者からの問いのような気がする。